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フォーク史

Bitcoin Cash、Bitcoin SV、そしてソフトフォーク。Bitcoinの歴史における重要な分裂と、「不変性」を巡る哲学的闘争。

約7分

ハードフォークとソフトフォーク

  • フォーク(fork)とは、ブロックチェーンのプロトコル変更。既存ネットワークから新しいルールに分岐することを指します。
  • ソフトフォーク(Soft Fork): 新しい有効性ルールが既存ルールのサブセット。新ルールを実装しないノードも、新ルールを適用するノードと互換性があります。下位互換性あり。
  • ハードフォーク(Hard Fork): 新しい有効性ルールが既存ルールと非互換。新ルール・旧ルールそれぞれのノードが別のチェーンを認識。下位互換性なし——結果として2本のチェーンが生まれる。
  • Bitcoinは保守的にソフトフォークを好む傾向があります。SegWit(2017年)、Taproot(2021年)はいずれもソフトフォーク。ハードフォークは「分裂」を必然的に招くため、コミュニティの総意が得られない限り避けられます。
  • UASF(User Activated Soft Fork)は2017年のSegWitで実践された手法。マイナーのシグナリングではなくノード運用者(ユーザー)の意志でアクティベートする形態です。

ブロックサイズ戦争(2015-2017年)

  • Bitcoin史上最も激しい内部論争。1 MBのブロックサイズ制限をどう解決するかで、コミュニティは二分されました。
  • 「ビッグブロック派」: ブロックサイズを単純に拡大(ハードフォーク)。主要提唱者は Roger Ver、Jihan Wu(Bitmain)等。BIP 100/101/109/148 等、複数の拡大案が浮上。
  • 「スモールブロック派」: SegWit + Lightning NetworkなどのL2でスケーリング。Core 開発者コミュニティ主流。BIP 141 SegWit がこの陣営の核。
  • ニューヨーク協定 (2017年5月): 主要企業・マイナーが署名した「SegWit + 2MB ハードフォーク」のコンプロマイズ。後に2MBフォーク部分は放棄され、SegWitのみアクティベート。
  • 2017年8月1日、BIP 148 の「強制ソフトフォーク」(UASF)が有効化され、SegWit が正式導入。同日、ビッグブロック派は Bitcoin Cash(BCH)をハードフォークで分離しました。

Bitcoin Cash(BCH、2017年8月1日)

  • Bitcoin の最初の主要ハードフォーク。ブロックサイズを8 MB に拡大(後に32 MB)。オンチェーン決済の実用性を重視。
  • Roger Ver(通称「Bitcoin Jesus」)が強力なマーケティングを展開。一時は「Bitcoin の真の後継」として米国・アジアで大きな支持を得ました。
  • 2018年11月、BCH 内部でさらに分裂。Craig Wright(自称サトシ・ナカモト)と Calvin Ayre 主導の Bitcoin SV(BSV)が Bitcoin Cash ABC から分岐。
  • 2020年11月、BCH からさらに eCash(XEC)が分岐。BCH トークン1枚を1,000,000 XECに分割するリデノミネーション付き。
  • 2026年時点でBCHの時価総額はBitcoinの1%未満。「Bitcoin のブランドを巡る論争」としては Bitcoin が圧勝する結果となりました。

Bitcoin SV(BSV、2018年11月)

  • Craig Wright が「Satoshi Vision」(サトシの本来の構想)を掲げて BCH からフォーク。ブロックサイズ上限を撤廃(無制限)。
  • Wright 自身が「サトシ・ナカモトである」と主張し続けたため、コミュニティ内外で激しい論争。2024年、英国高等法院の判決で Wright が「サトシではない」と認定されました。
  • 大規模な取引所上場廃止: 2019年、Binance、Kraken、ShapeShift等が BSV を上場廃止(Wright の個人攻撃的な法的脅迫への対応として)。
  • 2021年、BSV は51%攻撃を受け(複数のブロック再編成)、セキュリティの脆弱性が露呈。
  • 2026年時点でBSVの時価総額はさらに縮小。「失敗したフォーク」の代表例として歴史に記録されています。

主要ソフトフォーク史

  • BIP 16 P2SH (2012): 「Pay to Script Hash」。マルチシグ等のスクリプトを受信者アドレスに隠蔽する拡張。
  • BIP 66 Strict DER (2015): 署名形式の厳格化。暗号学的堅牢性を向上。
  • BIP 68/112/113 CSV (2015): Relative TimeLock。Lightning Network の基盤となる時限ロック機能。
  • BIP 141 SegWit (2017): Segregated Witness。トランザクションの可鍛性問題を解決し、Lightning Network を可能にしました。
  • BIP 340/341/342 Taproot (2021): Schnorr 署名、MAST、Tapscript。プライバシー向上、Ordinals の基盤。

「Bitcoin」とは何か——ガバナンス哲学

  • ブロックサイズ戦争は「Bitcoin のガバナンスは誰が握るのか」という根本的な問いを鮮明化させました。
  • 候補: 開発者(Core コントリビューター)、マイナー、取引所、大口保有者、一般ユーザー(ノード運用者)、企業——どれが真の意思決定者なのか?
  • 結論として「ノード運用者の総意」が決定権を持つことが証明されました。どれだけ多くのマイナーが同意しても、フルノードがそれを受け入れなければネットワークを分離するだけです。
  • これは「permissionless(許可不要)」と「censorship-resistant(検閲耐性)」というBitcoin の基本理念と一致します。
  • UASF(User Activated Soft Fork)という概念は、この「ユーザーがネットワークの守護者」という原則を実装した手法です。

今後のフォーク展望

  • ソフトフォーク候補: OP_CAT(再有効化)、OP_CHECKTEMPLATEVERIFY (BIP 119)、CAT/Covenants 系等、複数提案が議論中。どれも賛否分かれる難航課題です。
  • 量子耐性: 将来的な量子コンピュータへの対応として、ポスト量子暗号署名をBitcoinに導入するソフトフォーク提案。2027-2030年頃が議論のピークになる見込み。
  • ハードフォーク: 新規ハードフォークで「本家」を主張する動きは2017年以降見られません。市場はフォーク疲れし、コミュニティはBitcoin を選んだ後に新興フォークを軽視するようになりました。
  • 「Bitcoin は Bitcoin である」という単純な事実が、10年以上の論争を経てコミュニティに刻まれました。これがネットワーク効果の強固さを証明しています。
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