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Ordinals・Inscriptions・Runes

Bitcoinブロック上にデジタルアセットを刻み込む新しい潮流。2023年のOrdinalsと2024年のRunesが切り開いた世界と、その論争。

約10分

Ordinalsとは——satに番号を付ける発想

  • Ordinals理論は、Casey Rodarmorが2022年末から2023年初頭にかけて発表したプロトコルです。ビットコインの最小単位である satoshi(sat、1億分の1 BTC)に対して、マイニング順に一意の通し番号(序数、ordinal)を付与します。
  • 各satは理論上区別可能になり、特定のsatに任意のデータ(画像、テキスト、音声、動画、コード等)を「刻印(Inscription)」できるようになりました。
  • 重要なのは、Ordinalsは Bitcoin プロトコル自体を一切変更しないこと。既存のTaprootアップグレードが持つ機能を再解釈することで実現しました。ソフトフォーク等は一切不要です。
  • これにより、Bitcoinが長らく「通貨専用」と見なされてきた固定観念が崩れ、NFT・トークン・メタデータなど多様なユースケースが生まれました。
  • Casey Rodarmor自身の表現「digital artifacts」には、NFTよりも所有権の物理性・永続性を強調する意図があります。

Taprootがなぜ可能にしたか

  • 2021年11月にアクティベートされたTaproot(BIP-340, 341, 342)は、Schnorr署名とMASTツリーを導入するソフトフォークでした。
  • Ordinalsが活用するのは Taproot の「witness script」部分。トランザクションのwitness領域に任意データ(最大約400KB)を埋め込むことができます。
  • witness データはブロックサイズの「重み」計算でディスカウントされる(1/4の重み)ため、比較的安価に大量データを格納できます。
  • 以前の OP_RETURN による小規模データ埋め込み(80バイト制限)とは桁違いの容量。画像、音声、さらには完全なHTMLアプリケーションまで刻印可能になりました。
  • Taproot提案時には「このような用途は想定していなかった」という議論があり、今も論争の火種の一つです。

最初のInscription(2023年1月)

  • 2023年1月3日(ビットコインのジェネシスブロック14周年)、Casey Rodarmor自身がブロック 767,430 で最初の Inscription(#0)を刻印しました。内容は「pizza.jpg」と題した画像でした。
  • 同年2月上旬には1万件を超える刻印が行われ、爆発的な普及が始まりました。Yuga Labs(Bored Ape Yacht Clubの運営)の「TwelveFold」など、Ethereum NFT業界からの参入も相次ぎました。
  • 2023年末までに Inscription 数は5,000万件を突破。手数料総額は億ドル単位に達し、マイナー収入に大きな影響を与えました。
  • 画像ファイル系が主流ですが、テキスト、SVG、HTML、動画、音声、そしてゲームまで、あらゆるデジタルアセットが刻印されています。
  • Inscriptionの「永続性」は Bitcoin ブロックチェーンの永続性そのもの。IPFS や中央集権サーバーに依存するEthereum NFTとは異なる設計思想です。

BRC-20——BitcoinにおけるERC-20

  • 2023年3月、開発者「Domo」がOrdinalsの仕組みを利用したトークン標準「BRC-20」を提案しました。
  • 仕組みは単純で、「deploy」「mint」「transfer」の各操作をJSONテキストとしてInscription化し、インデクサー側でバランスを計算します。
  • BRC-20は厳密にはプロトコルレベルの機能ではなく「off-chain convention」。ビットコインノードはトークンを認識しませんが、特別なインデクサーソフトウェアが残高を追跡します。
  • 「ORDI」「SATS」「PEPE」「MEME」等のトークンが発行され、ピーク時には時価総額数十億ドル規模に達しました。
  • ただしBRC-20は非効率で、各「transfer」が個別の Inscription として記録されるため、ブロック空間を大量消費しました。

Runes——2024年halving同日ローンチ

  • 2024年4月20日(2024年halving の当日、ブロック840,000)、Casey RodarmorがRunesプロトコルをローンチしました。
  • Runesは「fungible token on Bitcoin」のための新設計で、BRC-20の非効率性を解決することを目的としています。
  • 実装上、OP_RETURN を拡張利用(1トランザクションで最大82バイト、将来さらに拡大予定)するUTXO ベースの設計。ビットコインの native UTXO モデルに整合的です。
  • halving 当日の手数料高騰と相まって、Runes ローンチブロックは史上最高の手数料収入(約37.7 BTC、2億円相当)をマイナーにもたらしました。
  • 「UNCOMMON•GOODS」「DOG•GO•TO•THE•MOON」「RSIC•GENESIS•RUNE」など数千のRunesトークンが発行され、特に日本語アルファベット表記の「•」(Middle Dot)区切りがコミュニティ文化として定着しました。

手数料市場への影響

  • Ordinals・Runes以前、Bitcoinの手数料は1サトシ/vB以下が常態でした。2023年以降、手数料は数百サトシ/vBまで高騰する局面が頻発。
  • halving後(2024年4月以降)のマイナー収入において、手数料が占める比率が従来の数%から最大30〜40%まで上昇。halving 直後数ブロックでは手数料がブロック補助金を上回る事態も発生しました。
  • この手数料プレミアムは長期的にマイナーの存続性を保障する要素として評価される一方、送金ユーザーにとってはコスト増という批判もあります。
  • Lightning Network や他の Layer 2 へのオンランプ/オフランプ コストも Ordinals の手数料高騰に影響を受けます。
  • 2026年4月の5回目halving到達時点(実際は2028年予定ですが)、Ordinals 由来の手数料がマイナー報酬の持続可能性を支える重要な要素として機能しています。

コミュニティ論争

  • Ordinalsはビットコインコミュニティで最も激しい論争を引き起こしました。Luke Dashjr(著名ビットコインコア開発者の一人)は「スパム」「脆弱性の悪用」と厳しく批判。
  • 批判側の主張: Bitcoinは「pure money」として設計されており、NFT/画像/JPEG などは本来の目的から逸脱。ブロック空間の限られたリソースを消費し、送金者の手数料負担を増やしている。
  • 擁護側の主張: Bitcoinは「permissionless」なプロトコル。有効な手数料を払う限り、誰も利用を阻止できないのがむしろ美点。またマイナーにとっては新しい収益源。
  • Ocean Mining(Luke Dashjr関与)のようにOrdinalsトランザクションを意図的に除外するマイニングプールも登場。一方でほとんどの主要プールはOrdinalsをそのまま採掘。
  • Bitcoin Coreに「OP_RETURN データサイズ制限」「-datacarrier」等のフィルタ強化を求める BIP 提案が活発化していますが、いずれも妥協点を見出せていません。

実際のユースケース

  • デジタルアート: 伝統的NFTアーティストがEthereumからOrdinalsへ移行。完全オンチェーン・永続保存という性質が評価されています。
  • ドメイン風識別子: .sats(SatsDomains)など、Ordinalsを利用した Bitcoin native 命名システム。
  • 歴史的データ保存: 古典書籍、オープンソースコード、偉人スピーチなど「1000年後も消えないアーカイブ」としての利用。
  • ゲームアセット: オンチェーン完結のBitcoinベースゲーム(小規模)。
  • ブランドマーケティング: マクドナルド、Pepsi 等の大手ブランドが Ordinals を活用した限定コレクションをリリース。

Ethereum NFT との比較

  • 保存場所: Ethereum NFT は通常メタデータを IPFS や AWS S3 に保存し、オンチェーンには参照URLのみ。Ordinals は完全オンチェーン(Bitcoin ブロックに直接刻印)。
  • 永続性: IPFS は pin 料金が途切れれば消失リスク。AWS は運営会社依存。Ordinals は Bitcoin が存在する限り永続。
  • 発行コスト: Ethereum のガス代は相対的に低いが、Bitcoin Ordinals は刻印時に比較的高額な手数料が必要。
  • ロイヤリティ: Ethereum NFT にはスマートコントラクトによる自動ロイヤリティ機能があるが、Ordinals は UTXOの単純な移転のためロイヤリティ強制不可(社会的契約に依存)。
  • エコシステム成熟度: OpenSea等のEthereum側は10年近い成熟があり、Ordinals 側はMagic Eden/Ordswap等がまだ発展途上。

今後の展望

  • Ordinals由来の手数料収入は halving 後のマイナー持続可能性を左右する要素として、実務上重要性を増しています。
  • Runes の発展により、Bitcoin上でのミーム通貨・ユーティリティトークン・ステーブルコインの実験が活発化。
  • BitVM、Babylon など、Ordinals/Runesと連携する Layer 2 プロジェクトの出現。
  • 一方で、規制当局(米SEC等)が一部のRunes/BRC-20を「未登録証券」として調査する動きも。
  • 長期的には「Bitcoin = 通貨のみ」から「Bitcoin = 通貨+デジタルアセット基盤」というアイデンティティ転換の可能性。
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