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Ordinals・Inscriptions・Runes
ビットコインのブロック上にデジタルアセットを刻み込む新しい潮流。2023年のOrdinalsと2024年のRunesが切り開いた世界と、その論争。
約16分
この記事の出典を確認する(7件)記事概要
最小単位のsatoshiに通し番号を与え、そこに結び付いた画像や文章を追いかける。Ordinalsは、Bitcoinにもとからある部品だけで新しい見方を作りました。
理解の手がかり
劇場のすべての座席に通し番号を付け、選んだ席に展示用の札を結び付ける。そう考えると、通し番号(ordinal)と刻印(inscription)の関係を想像できます。
比喩の限界
Ordinals理論はsatoshiを追跡するための取り決めで、BitcoinのコンセンサスがNFTという所有区分を直接認めているわけではありません。移転の解釈は、対応するソフトウェアにも左右されます。
ブロックチェーンに存在するデータと、ソフトウェアや共同体が与えた意味とを分けて見られます。
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1Ordinalsとは——satに番号を付ける発想
Ordinals理論は、Casey Rodarmorが2022年末から2023年初頭にかけて発表したプロトコルです。ビットコインの最小単位である satoshi(sat、1億分の1 BTC)に対して、マイニング順に一意の通し番号(序数、ordinal)を付与します。
各satは理論上区別可能になり、特定のsatに任意のデータ(画像、テキスト、音声、動画、コード等)を「刻印(Inscription)」できるようになりました。
重要なのは、Ordinalsがビットコインのプロトコル自体をまったく変更しない点です。既存のTaprootアップグレードが持つ機能を読み替えることで実現しており、ソフトフォークなどは一切必要ありません。
この「変更しない」という性質には帰結もあります。番号付けと帰属の解釈はプロトコルではなくインデクサー(ord等)の規約に依存し、ビットコインノードはInscriptionを認識しません。したがってOrdinals非対応のウォレットは、刻印されたsatを通常の資金として手数料やお釣りに使ってしまう可能性があります。同じ設計が、後述するBRC-20が「off-chain convention」にとどまる理由でもあります。
これによって、ビットコインを「通貨専用」と見る前提は実務のうえで問い直され、NFT・トークン・メタデータなど多様な使い道が生まれました。もっとも、これを前進と見るか逸脱と見るかは立場によって分かれます。本サイトはどちらの評価も採らず、「コミュニティ論争」の節で両論を併記します。
Casey Rodarmor自身の表現「digital artifacts」には、NFTよりも所有権の物理性・永続性を強調する意図があります。
2Taprootがなぜ可能にしたか
2021年11月にアクティベートされたTaproot(BIP-340, 341, 342)は、Schnorr署名とMASTツリーを導入するソフトフォークでした。
Ordinalsが使うのは Taproot の「witness script」の部分です。トランザクションのwitness領域に、任意のデータを埋め込めます。上限は標準ルール上のトランザクション重量 MAX_STANDARD_TX_WEIGHT = 400,000 WU(weight unit)で、witness データに換算すると概ね390KB程度に相当します。
witness データはブロックの「重み」計算でディスカウントされる(1バイトあたり1 WU=非witness部の1/4)ため、比較的安価に大量データを格納できます。
以前の OP_RETURN による小規模データ埋め込み(標準ルール上、scriptPubKey 全体で83バイト=データ部80バイト)とは桁違いの容量です。画像や音声、さらには完全なHTMLアプリケーションまで刻印できるようになりました。
Taproot提案時には「このような用途は想定していなかった」という議論があり、今も論争の火種の一つです。
3最初のInscription(2022年12月)
2022年12月14日、Casey Rodarmor自身が最初の Inscription(#0)を刻印しました。内容はビットコインのジェネシスブロックへのオマージュとされるモノクロのドクロ(skull)のピクセルアートでした(Ordinals ソフトウェアの一般公開は2023年1月)。
同年2月上旬には1万件を超える刻印が行われ、爆発的な普及が始まりました。Yuga Labs(Bored Ape Yacht Clubの運営)の「TwelveFold」など、Ethereum NFT業界からの参入も相次ぎました。
2023年末までに Inscription の数は5,000万件を突破しました。手数料の総額は億ドル単位に達し、マイナー収入に大きな影響を与えています。
画像ファイル系が主流ですが、テキスト、SVG、HTML、動画、音声、そしてゲームまで、あらゆるデジタルアセットが刻印されています。
Inscriptionのデータはブロックチェーンそのものに載るため、外部ホスティングが止まって内容が消える、という形で失われることはありません。ただし「永続」を無条件に言うことはできません。第一に、witness データを保持しないpruned(剪定)ノードや軽量クライアントは、そのデータを持ちません。第二に、どのsatにどの刻印が帰属するかの解釈はord系インデクサーの規約に依存し、コンセンサスルールの外にあります。第三に、非対応ウォレットが該当のsatを手数料やお釣りとして費消してしまえば、帰属は事実上失われます。IPFSや中央集権サーバーに依存するEthereum NFTとは異なる設計思想ですが、依存先が「ブロックチェーン」から「インデクサーとアーカイブの継続」へ移っているという読み方が正確です。
4BRC-20——BitcoinにおけるERC-20
2023年3月、開発者「Domo」がOrdinalsの仕組みを利用したトークン標準「BRC-20」を提案しました。
仕組みは単純です。「deploy」「mint」「transfer」の各操作をJSONテキストとしてInscription化し、インデクサー側で残高を計算します。
BRC-20は厳密にはプロトコルレベルの機能ではなく、チェーン外の取り決め(off-chain convention)です。ビットコインのノードはトークンを認識せず、専用のインデクサーソフトウェアが残高を追跡します。
「ORDI」「SATS」「PEPE」「MEME」等のトークンが発行され、ピーク時には時価総額数十億ドル規模に達しました。
ただしBRC-20は効率が悪く、「transfer」のたびに個別の Inscription が記録されるため、ブロック空間を大量に消費しました。
5Runes——2024年の半減期と同日のローンチ
2024年4月20日(2024年の半減期当日、ブロック840,000)に、Casey RodarmorがRunesプロトコルをローンチしました。
Runesは、ビットコイン上の代替性トークン(fungible token)のための新設計で、BRC-20の非効率性を解決することを目的としています。
実装上はOP_RETURNを利用するUTXOベースの設計で、ビットコイン本来のUTXOモデルと整合的です(ローンチ当時の標準ルールでは scriptPubKey 全体で83バイト=データ部80バイトが上限。2025年10月のBitcoin Core 30.0でこの既定の上限は事実上撤廃されました)。
半減期当日の手数料高騰と重なり、Runes のローンチブロック(840,000)は当時として史上最高の手数料収入をマイナーにもたらしました。約37.6 BTC で、当時のレートで約240万ドル(1ドル154円換算で約3.7億円)に相当します。
「UNCOMMON•GOODS」「DOG•GO•TO•THE•MOON」「RSIC•GENESIS•RUNE」など数千のRunesトークンが発行されました。名前に現れる「•」はコミュニティの慣習ではなく、プロトコル仕様上の要素です。Rune 名に使える文字は A–Z のみと定められており、区切りは名前の一部ではなく別途 spacers というビットフィールドで指定され、表示時に「•」として描画されます(例:名前が AAAA、spacers が 0b1 なら A•AAA と表示)。日本語表記とは無関係です。
6手数料市場への影響
Ordinals登場の直前にあたる2022年の閑散期には、ビットコインの手数料が1サトシ/vB前後まで下がる状態が続いていました。ただしこれを「Ordinals以前は常にそうだった」と読むのは誤りです。2017年末や2021年にも、Ordinalsとは無関係な要因で数百サトシ/vBまで高騰した局面があります。2023年以降の高騰は、そうした過去の周期に新しい需要源が加わったものと読むのが正確です。
マイナー収入に手数料が占める比率も、集計の単位によって数字が変わります。日次平均で見ると、半減期後(2024年4月以降)の需要が集中した日には30〜40%程度に達した局面があり、従来の数%からは大きく上昇しました。他方、個別のブロック単位で見れば、半減期直後の数ブロックのように手数料がブロック補助金(当時3.125 BTC)を上回った例もあります。前者は平均、後者は極値であり、両者は矛盾しません。
この手数料プレミアムは長期的にマイナーの存続性を保障する要素として評価される一方、送金ユーザーにとってはコスト増という批判もあります。
Lightning Network や他の Layer 2 へ資金を出し入れするときのコストも、Ordinals による手数料高騰の影響を受けます。
5回目の半減期(2028年予定)が近づくなか、Ordinals由来の手数料は、マイナー報酬を長期的に支える構造的な要素として注目されています。
7コミュニティ論争
Ordinalsはビットコインコミュニティで最も激しい論争を引き起こしました。Luke Dashjr(著名なビットコインコア開発者の一人)は「スパム」「脆弱性の悪用」と厳しく批判しています。
批判側の主張はこうです。ビットコインは「pure money」として設計されており、NFTや画像、JPEG などは本来の目的から外れている。限られたブロック空間を消費し、送金者の手数料負担を増やしている——というものです。
擁護側の主張はこうです。ビットコインは「permissionless」なプロトコルであり、有効な手数料を払う限り誰も利用を止められないことこそが美点である。マイナーにとっては新しい収益源でもある——というものです。
Ocean Mining(Luke Dashjr関与)のように、Ordinalsのトランザクションを意図的に除外するマイニングプールも現れました。一方で、ほとんどの主要プールはOrdinalsをそのまま採掘しています。
2025年10月リリースのBitcoin Core 30.0では逆に、OP_RETURNのデータ上限(従来は scriptPubKey 全体で83バイト=データ部80バイト)が既定で事実上撤廃されました。この緩和に反発するノード運用者がフィルタ重視のBitcoin Knotsへ移行するなど、データ格納をめぐる論争は今も続いています。
8実際のユースケース
まず量的な前提を押さえる必要があります。刻印の内訳は画像ばかりではなく、2023年末時点では刻印全体の8割超がBRC-20関連のテキストだったと報告されています。以下に挙げるのは残りの部分に含まれる代表例であり、Ordinalsの利用全体を代表するものではありません。
デジタルアート:従来のNFTアーティストがEthereumからOrdinalsへ移ってきています。データがオンチェーンに載る点が評価されています(永続性の条件は前述のとおりです)。
ドメイン風の識別子:.sats(SatsDomains)など、Ordinalsを使ったビットコイン上の命名システムです。ただしDNSのような名前解決の権威ではなく、インデクサーの規約上の合意にとどまります。
歴史的なデータの保存:古典書籍、オープンソースのコード、著名な演説などを、長期保存を目的として刻印する使い方です。
ゲームアセット:オンチェーンで完結する、小規模なビットコインベースのゲームで使われています。
既存NFTスタジオの参入:Ethereum系NFTの大手であるYuga Labs(Bored Ape Yacht Club)が2023年3月に「TwelveFold」300点をOrdinalsで発行しました。なお大手消費財ブランドがOrdinalsでコレクションを出したとする話が広く流通していますが、確認できる一次情報が乏しいため本サイトでは事例として挙げません。
9Ethereum NFT との比較
保存場所:Ethereum NFT は通常、メタデータを IPFS や AWS S3 に保存し、オンチェーンには参照URLだけを置きます。Ordinals は完全にオンチェーンで、ビットコインのブロックへ直接刻印します。
永続性:IPFS は pin の料金が途切れれば消える恐れがあり、AWS は運営会社に依存します。Ordinals はデータ自体がブロックチェーンに載るため外部のホスティングには依存しませんが、witness を保持しないpruned ノードには残らず、帰属の解釈もインデクサー依存です。依存先が消えるのではなく移る、と理解するのが正確です。
発行コスト:Ethereum のガス代は相対的に低い一方、Ordinals では刻印のときに比較的高い手数料がかかります。
ロイヤリティ:Ethereum NFT にはスマートコントラクトによる自動ロイヤリティの機能がありますが、Ordinals は UTXO を単純に移転するだけなので、ロイヤリティを強制できません(社会的契約に依存します)。
エコシステムの成熟度:OpenSea など Ethereum 側には10年近い蓄積がある一方、Ordinals 側の Magic Eden や Ordswap はまだ発展途上です。
10今後の展望
Ordinals由来の手数料収入は、半減期後にマイナーが事業を続けられるかを左右する要素として、実務上の重要性を増しています。
Runes の発展により、ビットコイン上でのミーム通貨・ユーティリティトークン・ステーブルコインの実験が活発になりました。
BitVM や Babylon など、Ordinals/Runes と連携する Layer 2 プロジェクトも現れています。
一方で、Runes/BRC-20のようなトークンが証券に当たるか否かの法的位置づけは、各国の規制動向により変化し得ます。米国では2026年3月17日にSECとCFTCが共同解釈通牒(Release No. 33-11412)を公表し、暗号資産を digital commodities / digital collectibles / digital tools / stablecoins / digital securities の5類型に整理しました。NFT的な資産を対象とする digital collectibles という類型が置かれたことは本記事の主題に直接関係しますが、個別のトークンが投資契約に当たるかどうかは事実関係次第で判断されます。本サイトは法的助言を行いません。
長期的には「Bitcoin = 通貨のみ」から「Bitcoin = 通貨+デジタルアセット基盤」へと、位置づけが転換していく可能性もあります。
主な参照元
次に読む
規制の動向 — 日本と世界約15分関連トピック
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引用情報 / Citation
- Title
- Ordinals・Inscriptions・Runes
- Source
- ビットコイン図書館 (bitcoin.ne.jp)
- Canonical URL
- https://bitcoin.ne.jp/learn/ordinals
- Author
- KK siiiiiixth
- Topic
- ordinals
- Published
- Updated
- 最終検証 / Last verified
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変更履歴 / Revision history
- 検証不能なブランド事例を削除しYuga Labs TwelveFoldへ差し替え、Runesの「•」をプロトコル仕様のspacerとして是正、手数料統計の集計単位と期間を明示、永続性の主張を条件付き化、単位表記(400,000 WU / OP_RETURN 83バイト)を統一、SEC・CFTC共同ガイダンスを出典に追加