第 6 架 拡張 40 / 45
Layer 2とスケーリング
Lightning以外にも、ビットコインにはBitVM、Rootstock、Stacks、Babylon等の多様なLayer 2が存在する。それぞれの設計思想と実用化の現状。
約18分
記事概要
すべてをベースチェーンに書かず、その上で速く動き、必要なときだけ戻る。Layer 2は「何を一階へ残すか」の設計です。
理解の手がかり
混雑する中央広場の上に、地下鉄や連絡通路、預かり所をつくる都市計画。そう見ると、いくつものスケーリング方式の違いが見えてきます。
比喩の限界
Layer 2は一つの技術ではありません。セキュリティ、データの可用性、運営者、退出の方法がそれぞれ違い、ベースレイヤーの性質を自動的にすべて受け継ぐわけでもありません。
「速い」という宣伝の先で、何がチェーンに残り、誰が止められ、どうすれば戻れるのかを問えます。
用語集を開くこの記事の目次10節
1なぜLayer 2が必要か
ビットコインのベースレイヤーは「世界中の誰もがフルノードを運用できる」ことを最優先に設計されています。ブロックの上限は重量単位で4,000,000 WU(weight unit)と定められており、実際のブロックサイズは概ね1〜2MB、理論上の最大が約4MBです。この上限と10分間隔のブロック生成は、その設計哲学の結果です。
この制約により、1秒あたりの処理能力は理論上でも最大7〜14トランザクション程度にとどまります。世界規模の決済インフラを担うには到底足りません。
Layer 2(L2)は、ビットコインのベースレイヤーの上に構築される二層目のプロトコルです。大量のトランザクションをL2で処理し、最終的な決済だけをベースレイヤーへ記録することで処理能力を確保します。
ビットコインのセキュリティ(Proof of Work、分散性)を引き継ぎながら、L2ごとに異なる設計上の取捨(速度・プライバシー・スマートコントラクト機能など)を選べます。
Ethereum のL2(Arbitrum, Optimism等)とは対照的に、ビットコインのL2はそれぞれ異なる技術を採用しており、「単一標準」は存在しません。
ただし先に断っておくべきことがあります。「Bitcoin Layer 2」という分類そのものが、技術的な合意を得た定義ではありません。ベースレイヤーの安全性をどこまで継承していればL2と呼べるのかについて統一基準はなく、実際には独自のコンセンサスを持つ別チェーンや、運営者に資金を預ける仕組みまでが同じ名称で紹介されています。呼称にはマーケティング上の便宜という面があります。本記事は「L2かどうか」ではなく、次節の類型と各プロジェクトの信頼前提で読み分けます。
2類型で読み分ける
「Layer 2」と一括りにされる仕組みは、実際には別々の類型に分かれます。名称よりも、資金がどこに置かれ、誰の承認なしに取り戻せるのかを見るほうが確実です。
ペイメントチャネル:2者間で資金をロックし、オフチェーンで残高を更新する方式。相手の同意がなくてもオンチェーンへ一方的に退出できる点が特徴です(Lightning)。
サイドチェーン:独自のコンセンサスを持つ別チェーン。ベースレイヤーとの往復は「ペグ」で行われ、ペグを保全する主体(フェデレーション、マージマイニング)が信頼の対象になります(Liquid、Rootstock)。
フェデレーション/閾値署名:複数の主体が鍵を分散して保持し、一定数の合意で資金を動かす方式。閾値を超える結託があれば資金は失われ得ます(Liquidのファンクショナリー、sBTCの署名者セット、Fedimintのガーディアン)。
ロールアップ/不正証明:オフチェーンで実行し、結果に争いがあるときだけオンチェーンで検証する方式。BitcoinではBitVM系がこの方向を目指していますが、実用化は途上です(Bitlayer、Citrea、BOB)。
クライアントサイド検証:資産の正当性をチェーンではなく、当事者間で受け渡す検証データで確かめる方式。ブロックチェーンには最小限のコミットメントのみを置きます(RGB、Taproot Assets)。ノードは資産を認識しないため、検証データを失えば資産も失われます。
ブリッジ:チェーン間で資産を移す仕組み。暗号資産で最大規模の資金流出は、歴史的にこのブリッジで繰り返し起きています。「L2に資金を移す」という行為の危険は、多くの場合ブリッジの設計に集中しています。事故の記録は「主要事件と教訓」で扱っています。
3Lightning Network(最成熟のL2)
2015年に設計が公表され、2018年に主要な実装がメインネットに対応しました。最も広く普及したビットコインのL2で、ペイメントチャネルを基盤にマイクロペイメントと即時決済に特化しています。
公開ネットワークの容量・チャネル数・ノード数は週単位で増減します。本サイトはこれらの数値を「Lightning Network入門」に一元化しているため、現況の統計はそちらを参照してください(本記事に数値を重複して置くと、更新のたびにサイト内で食い違いが生じるためです)。
2026年3月、Tether が Lightning Network 上で USDT を稼働させました(Taproot Assets経由)。ビットコインのL2におけるドル建てステーブルコイン決済が、現実のものになっています。
LSP(Lightning Service Provider)が発展したことで、利用者が自分でチャネルを管理しなくても、すぐに使い始められるモバイル決済が実現しました。ただしLSPやカストディ型ウォレットに任せた場合、信頼の対象はプロトコルではなくその事業者になります。
実用例としては米国のStrikeや、Nostrエコシステムでの投げ銭などがあります。エルサルバドルのChivoウォレットもLightningを用いていましたが、2025年1月の法改正とIMFとの合意を経て、政府はChivoの売却または閉鎖という形で公的関与を解消する方針を示しました。現行の実用例としては数えられません。
Lightning については独立したトピックを設けています。詳細は「Lightning Network入門」を参照してください。
4Liquid Network(サイドチェーン)
Blockstream(Bitcoin Core 開発者コミュニティの主要企業)が2018年に立ち上げたフェデレーション型のサイドチェーンです。
L-BTC(Liquid Bitcoin)という、1:1でペッグされたビットコインを使います。ビットコイン本体とは双方向のペグで交換できます。
機能面では、2分間隔の高速なブロック、機密取引(Confidential Transactions)、発行資産(Issued Assets)を備え、複数の通貨やトークンを発行できます。
運営構造は二層です。Liquid連盟(フェデレーション)の参加組織は2026年第1四半期時点で約87社ですが、ブロック署名とペグの保全を実際に担うのは「ファンクショナリー」と呼ばれる15ノードです。Bitcoin本体との往復ペグは、この15鍵のうち11鍵を要する11-of-15マルチシグで守られています。
つまりL-BTCの裏付けは「11のファンクショナリーが結託しない」かつ「5以上が同時に停止しない」という前提の上に成り立ちます。この11-of-15こそがLiquidの信頼前提の核心であり、Bitcoin本体より分散性が低いことを承知のうえで速度と機密取引を選ぶ設計です。
Tether がUSDT-Liquidを発行しており、主要取引所間のOTC決済に使われています。
5Rootstock(RSK)とStacks
Rootstock (RSK):ビットコインとマージマイニング(同時採掘)されるEVM互換のサイドチェーンで、2018年にローンチしました。ビットコインの上で Ethereum 互換のスマートコントラクトを動かします。
Stacks:Proof of Transfer (PoX) という独自のコンセンサスを採用しています。Stacks のマイナーがBTCを stackers(STXステーカー)へ送り、その見返りにSTXのブロック報酬を得る設計です。
Stacks 3.0(Nakamoto Release、2024年)では、ビットコインのファイナリティとの統合が強化されました。Stacks 上の取引がビットコインのブロックに「アンカー」されることで、セキュリティが引き継がれます。
sBTCはStacks上でBTCを扱うための実装で、2024年12月にメインネットで入金(デポジット)のみが稼働し、出金は2025年4月30日に開始されました。ペグを保全するのは当初15の機関からなる署名者セットで、閾値署名によって資金が動きます。
「非カストディ」と紹介されることがありますが、利用者が単独で資金を取り戻せる設計ではありません。署名者セットが正しく動作し続けることが前提であり、信頼前提としてはフェデレーション型に近いものです。トラストレス化と署名者セットの分散化は段階的な目標として掲げられています。
これらはビットコインのL2と呼ばれますが、独自のコンセンサスとトークンを持つため、「関連チェーン」と位置づけるほうが正確です。
6BitVM(2023年提案)
2023年10月に Robin Linus が発表した、ビットコイン上で任意の計算を検証できるようにする画期的なアイデアです。
Bitcoin Script に処理を直接追加するのではなく、「Fraud Proof」を用いた楽観的な実行モデルを取ります。計算結果に争いがあるときだけ、オンチェーンで検証します。
Ethereum の Optimistic Rollup に似た仕組みを、ビットコイン上で実現するものです。理論上は、ビットコインのL2として Turing-complete な計算ができるようになります。
2024年以降、BitVM1、BitVM2 と改良が重ねられ、複数のプロジェクト(Bitlayer、Citrea、BOB等)が BitVM を基盤にBTCのL2を構築しています。
実用化には課題が多く残りますが(最悪の場合に大量のオンチェーン取引を必要とする等)、ビットコインのL2設計に新しい地平を開きました。
7Babylon(BTCステーキング)
2022年に設立され、2024年にメインネットをローンチしました。BTCをビットコインのメインチェーンに置いたまま、他のPoSチェーンの安全性を支える「担保」として差し出す仕組みです。
機構を正確に述べると、時限ロックされるのは秘密鍵ではありません。ロックされるのはステーキング用のUTXO(アウトプット)です。利用者は自分の資金を、複数の使用条件を持つスクリプトに送ります。条件は概ね、(1)一定期間の経過後に本人が引き出せる、(2)covenant(コヴナント)委員会の合意で早期に解除できる、(3)不正が起きた場合にスラッシング用の取引で没収できる、の三つです。
そのスラッシングを可能にしているのがEOTS(Extractable One-Time Signature、抽出可能な一回限りの署名)です。ファイナリティ・プロバイダは各ブロック高について事前にコミットした乱数を使い、一度だけ署名します。同じ高さで二つの異なるブロックに署名すると同じ乱数を再利用することになり、その二つの署名からプロバイダの秘密鍵が誰にでも復元できてしまいます。復元された鍵はあらかじめ用意されたスラッシング取引の署名に使われ、そのプロバイダに委任されていたBTCが没収されます。
したがって「セルフカストディ型ステーキング」と呼ばれるのは、資金が第三者のアドレスへ移らないという意味においてです。委任先のファイナリティ・プロバイダが二重署名すれば、自分に落ち度がなくても持ち分は削られます。スクリプトの正しさとcovenant委員会の挙動も前提に含まれます。
2024年から2026年にかけて、BTCのステーキングは急速に広がりました。Babylonを基盤にした「Restaking」プロジェクト(Lorenzo、Pendle 等)も現れています。
BTC保有者にとって新しい利回り源を提供する一方、「利回りを持たないことこそがBitcoinの性質だ」とする立場からの批判もあります。
8Ark、Fedimint等の新世代
Ark:Lightning とは異なる仕組みで即時決済を目指すプロトコルです。ペイメントチャネルのような長期の関係ではなく、共同出資者型のUTXO共有モデルを取ります。
Fedimint:Chaumian ecash を基盤とするフェデレーション型のビットコイン保管システムです。プライバシーが高く、コミュニティや家族単位のビットコイン銀行として機能します。ただし資金を実際に預かるのはguardian(ガーディアン)と呼ばれる運営者群であり、閾値を超える人数が結託すれば資金は失われます。構造としてはカストディです。
Cashu:Fedimint に似た ecash プロトコルです。より軽量で開発者にとって扱いやすい設計ですが、資金を保管するのは単一のmint(発行者)です。mintが持ち逃げすれば、利用者に取り戻す手段はありません。少額を、信頼できる運営者との間で扱う用途に限られます。
これらは「少額を、信頼できる相手との間で、高いプライバシーで扱う」ための道具です。Lightningの流動性・チャネル管理の複雑さを回避できる代わりに、自己保管そのものを手放しています。長所と短所は同じ設計から出ています。
2026年時点では実験的段階ですが、特にプライバシー重視のユーザーコミュニティで採用が進んでいます。
9Layer 2の比較
各L2を「速い/遅い」で比べるより、資金を失わせ得るのは誰か、そしてその相手の同意なしにオンチェーンへ退出できるかで比べるほうが、実用上の意味があります。以下は推奨ではなく、信頼前提の対照です。
| プロトコル | 主な用途 | 信頼前提(資金を失わせ得る主体) | 一方的な退出 | スマートコントラクト |
|---|---|---|---|---|
| Lightning | マイクロペイメント・即時決済 | チャネルの相手方(不正ブロードキャストを自分または委託先が猶予内に検知できない場合) | 可(自分でチャネルを閉じてオンチェーンへ) | × |
| Liquid | 機関間の取引・OTC決済 | ファンクショナリー15のうち11の結託 | 不可(ペグアウトはフェデレーション経由) | △ |
| Rootstock | EVM互換のDeFi | ペグを保全するフェデレーション(+マージマイニングの実効的な集中) | 不可 | ◎(EVM互換) |
| Stacks / sBTC | NFT・アプリ | sBTCの署名者セット(閾値署名) | 不可 | ◎(Clarity言語) |
| Fedimint | コミュニティ規模の保管・送金 | guardianの閾値を超える結託 | 不可 | × |
| Cashu | 少額のプライバシー送金 | 単一のmint(持ち逃げが構造的に可能) | 不可 | × |
| Babylon | BTCステーキング | 委任先ファイナリティ・プロバイダの二重署名、covenant委員会 | 可(タイムロック満了後は本人が引き出せる) | ×(L2というより資産活用プロトコル) |
| BitVM系 | 汎用計算(開発中) | 実装ごとに異なる(現状は運営者依存の設計が多い) | 実装依存 | ◎(任意計算) |
速度は概ね、Lightningが秒単位、Liquidが2分ブロック、Rootstock/Stacksが数十秒〜数分、BitVM系は実装依存です。ただしこの差が意思決定を分けることは実際には少なく、上表の2列目・3列目のほうが影響は大きくなります。
プライバシーも一律には言えません。Lightningは取引が公開台帳に残らない点で優れますが、チャネルグラフは公開されており、経路上の相手や利用しているプロバイダには情報が渡ります。Liquidの機密取引は金額と資産種別を隠しますが、フェデレーションの可視性の中にあります。Fedimint/Cashuのecashは対運営者のプライバシーが高い一方、その運営者が資金を保管しています。
10今後の展望
半減期のたびにマイナー報酬が減っていくため、オンチェーンの手数料に依存するレイヤーは長期的な課題を抱えます。L2の発展は、ビットコイン経済圏全体の持続可能性を支える柱です。
Ordinals/Runes は皮肉にも、ビットコインの手数料市場を活性化させてマイナーの収益を支えています。
Cross-L2 Atomic Swap が実用化すれば、Lightning ↔ Liquid ↔ Stacks などの相互運用性が高まります。
BitVM 系 L2 が実用化すれば、ビットコイン上で Ethereum 互換の DeFi が動く可能性もあります。
一方で、L2が増えることはビットコインの「単純さ」を損なうという批判もあります。最終的にどのL2が主流になるかは、今後数年の競争で決まります。
主な参照元
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引用情報 / Citation
- Title
- Layer 2とスケーリング
- Source
- ビットコイン図書館 (bitcoin.ne.jp)
- Canonical URL
- https://bitcoin.ne.jp/learn/layer2
- Author
- KK siiiiiixth
- Topic
- layer2
- Published
- Updated
- 最終検証 / Last verified
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変更履歴 / Revision history
- P2P・Bitcoinコンセンサス・Layer 2・アプリケーションの関係を示す日英レイヤー図を追加。
- Babylonの機構をstaking outputのタイムロック+EOTSに全面修正、比較表に「信頼前提」「一方的退出」列を追加、類型定義節を新設、Fedimint/Cashuのカストディ性・Liquid 11-of-15・sBTCの署名者セットを明記、Lightning統計は専用記事へ一元化